はじめに 小論集 文化と自然1 文化と自然2 文化と自然3 文化と自然4 風土博物館
松島榮治先生の論文集

■はじめに
■今井東平遺跡の調査とその成果
 @黒色磨研注口土器
 A敷石住居跡

■修験道関係資料の調査
 @万座温泉の“礫石経”
 A華童子宮跡
 B三原出土の経筒
 C今宮白山権現
 D熊野神社の奥ノ院

■埋没村落「鎌原村」の調査
 @埋没した鎌原村
 A鎌原村の発掘
 B発掘調査の成果

■峠を越えての文化の流入
 @縄文文化繁栄の背景
 A修験道隆盛の背景
 B鎌原村の生活文化の背景

■おわりに

今井東平遺跡の調査とその成果

 東平遺跡は、吾妻郡嬬恋村字今井字峯地内に所在する。この地は吾妻川の左岸、今井川とその支流温井川に挟まれた平坦地で、背後(北側)に山並みを背負い、南側に吾妻川の流れを眼下にみる。その範囲は、東西(今井川に沿った長さ)約350メートル、南北(温井川に沿った長さ)約150メートルの三角形状の平坦地で、その面積はおよそ2.65アールほどである。その標高は、西端で788メートルを測る。全体的に西に高く東に低い地形で約4度前後の緩い傾斜がみられる。この傾斜は今井川に沿ったもので、おそらくこの平坦地は、今井川によって形成された扇状地と思考される。

 このように立地する遺跡地は、今井地区内では1つの地域的まとまりをもつと同時に、比較的大きな広がりをもつ所とされ、地元ではこの地を、今井集落の東方にあることからして”東平”と呼び優良農地として利用されてきた。こうしたこの地は、古くから土器・石器の散布地と知られ、嬬恋村では、その保護条例によって、昭和51年「今井地区遺跡群」として史跡として指定した。

 この今井地区遺跡群こと今井東平遺跡の発掘調査は、平成5年道路拡張事業に係わる事前調査として実施され、以来「農村総合整備事業」の事前調査、または嬬恋村単独の学術調査として継続され、平成12年度の調査にいたるまで8次にわたる発掘調査が実施された。

 その主な成果は次にみる通りであるが、本県の縄文時代の遺跡としては稀にみる重要遺跡であることが判明しつつある。

 第1次発掘調査(平成5年度)
   主な成果  ・配石遺構(墓・祭祀場)の検出
         ・黒色磨研注口土器一対の発見(群馬県指定重要文化財)
 第2次発掘調査(平成7年度)
   主な成果  縄文中期の珍しい”再葬墓”の検出

 第3次発掘調査(平成8年度)
   主な成果  八角形の巨大敷石住居跡の検出

 第4次発掘調査(平成9年度)
   主な成果  ・保存状態の良い竪穴住居跡の検出
         ・巨大な平安時代の住居跡の検出

 第5次発掘調査(平成10年度)
   主な成果  縄文時代の“捨て場”の検出・調査

 第6次発掘調査(平成11年度)
   主な成果  重なり合う縄文中期竪穴住居跡の検出

 第7・8次発掘調査(平成12年度)
   主な成果  保存の良い六角形の敷石住居跡の検出

 以上、今井東平遺跡の概要を記したが、本稿においては、特に、目立つ事実について2・3紹介することとする。