はじめに 発掘誌 文化と自然1 文化と自然2 文化と自然3 文化と自然4 風土博物館
■文化と自然3

055.万座のゴヨウマツ
056.蛇の飾りの付いた土器
057.瀬戸の滝と不動さん
058.東平の赤色塗彩土器
059.常林寺の本堂
060.鳴尾の梵字岩
061.“丁石”百番観音像
062大前という地名
063.天仁元年の大噴火
064.月待ちの夜
065.吾妻山登頂の記
066.鎌原城の今昔
067.嬬恋村の獅子舞
068.種苗管理センター嬬恋農場
069.袋倉の獅子舞
070.近代文学の中の嬬恋その1
071.近代文学の中の嬬恋その2
072.大前の獅子舞
073.干川小兵衛のこと
074.浅間押し供養碑
075.黒岩長左衛門の事績
076.鎌原の獅子舞
077.大笹の獅子舞
078.下屋家文書
079.アンギンに挑む
080.嬬恋村の古代

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058.東平の赤色塗彩土器

 平成10年秋、東平遺跡の発掘調査の際に“捨て場”とされる遺構の下層から、突然赤色塗彩の縄文土器片が出現した。土色一色の雰囲気の中に、水気を含んで一段と赤みを帯びたその土器の出現に、発掘の現場は一瞬緊張し、やがてそれは歓声と共に大きな喜びへと変わっていった。

 発見された土器片は、国学院大学、小林達雄教授のご示唆もあって、千葉県佐倉市にある、国立歴史民俗博物館の永嶋正春先生による検討・保存処置が行われた。その後、専門家による復元作業がなされ、このほど見事に復元された“赤色塗彩土器”が資料館へ届けられた。復元された”赤色塗彩土器”は、大小2個であるが、そのうち大きいものが特に注目される。その大きさは、直径が44センチ、高さが20.5センチあり、高さの割りには口の大きく開いた浅鉢形をしたものである。

 ベンガラ(赤色酸化鉄)による塗彩は、口縁部を一周し、この土器のもつ明るい性格を見事に演出している。また、口辺部外側の文様は、それぞれ異なった文様による小区画3つを、1単位とし、これを3個連ねて全面に当て、併せては、小区画9つによって、構成されている。

 わが国では、古くから「三三」は、吉数を3回重ねためでたい数とする考えがあったが、この土器の文様構成は、まさにそれを想い起こさせるものがある。

 縄文土器には、煮炊きや貯蔵に使用した深鉢形土器の他に、盛り付けなどに使用された浅鉢形土器がある。このような土器は、時に、ベンガラや朱(水銀朱)によって、赤く塗彩されている。多分“聖なる土器”として、祝言などの慶事や埋葬などの祭儀に使用されたものであろう。

 東平遺跡で、この赤色塗彩土器が、どのように使用されていたかについては、この土器が捨て場に廃棄されていたことから、残念ながら明らかでない。しかし、この土器には、狩猟や採集によって得た収穫物を、山盛りにして中央に据え、これを囲んで明々と燃える火に頬を火照らせながら、歌舞に興ずる今から4500年前の、東平の縄文ムラの群像を彷彿として蘇らせるものがある。